虚子三代の句碑|大洗歴史漫歩(大久保 景明)

大洗磯前神社境内に建つ虚子(上の銘板)三代の句碑


 高浜虚子と、その長男年尾、そして年尾の二女稲畑汀子の三代の句が、各一句み影石に刻まれて、ひとつの碑にはめこまれています。

 この句碑は、大洗磯前神社の境内、百段近い石段を登り、古い石の鳥居をくぐってすぐ右側にあります。

 眼下には大洗の荒波が、磯を噛むさまが一望される素晴らしい所です。


浪間より秋立つ舟の戻りけり  虚子

引汐のやがて千鳥の来る頃と  年尾

春光を砕きては波かがやかに  汀子


 句碑は高さ1.67m 幅1.9m 厚さ45㎝の筑波石に、ここ、波の花ちる大洗の風光にふさわしい上記の句が選ばれ、字はそれぞれ自筆の短冊や色紙から集められています。

 高浜虚子は皆さんもご存じのように、明治7年愛媛県松山市に生れ、明治24年伊予中学校在学中に、級友の河東碧梧桐を介し、同郷の先輩子規と文通したのが俳句への機縁だそうですが、明治31年に松山の柳原極堂から俳誌ホトトギスを継承しました。

 子規の写生説を基底にして、花鳥諷詠を理念とし、多くの名句を残し、著名の多くの門人を育て、俳句の普及振興に大いに寄与しました。昭和29年にはその功績により文化勲章を受けました。昭和34年没。大洗紀行もあります。

 高浜年尾は(明治33年~昭和55年)虚子の長男として東京に生れました。俳句を父に学び「ホトトギス」を継承しました。

 虚子はよく「平明」を説きましたが、年尾の作風は、平明にして余情深く、花鳥風月を詠じて正純、年尾も何度か来洗されました。昭和40年代に小樽高商同窓会を大洗で催された事もあります。

 稲畑汀子は年尾の二女として、昭和6年生れ、年尾の死後ホトトギスの主宰となりましたが、その後御夫君を亡くされ大変御苦労されたそうですが、それをのりこえて現在立派なホトトギス主宰者として、又新聞俳壇の選者、俳句各種教室の講師などと大いに活躍されています。兵庫県芦屋市在住。

 「ホトトギス」は皆さんもご存じのように、俳句雑誌で、明治31年に正岡子規が、門弟の柳原極堂が松山で発行して経営的に行きづまっていたのを東京に移し、虚子を発行名義人として発刊したものです。

 主宰者は子規、虚子、年尾、汀子と引きつがれてきました。

 その間、この門からは多くの著名な俳人文人が出ました。初期には写生道を唱道したり、写生文の運動になったりしましたが、ついには花鳥諷詠の定議にもとづいた伝統俳句の本山となりました。

 そして自由自然主義文学運動の影響でおこった俳句の自由律化(17字の破壊)、無季題化(季題無用)などの新傾向句運動や、近代的意識と近代的素材一辺倒になりがちな新興俳句運動から、あくまで俳句の制約を守り、新しさを伝統に加え、俳句の伝統の固有性を守りとおしてきました。

 この碑の前に立って、この三代の方々の1世紀にわたる俳句への執念と、精進の姿と業績を想い、深い感動を覚えました。

 この碑は俳句結社「茨城ホトトギス」(会長 塚本英哉氏)が創立5周年を記念して建てたもので、昭和61年11月24日に盛大な除幕式が行われました。

 その時は年尾夫人を始め関係者100人が列席し、稲畑汀子さんの手で除幕されました。

 建碑については会の幹部の方々、地元の俳人後藤亀泉氏等のなみなみならぬお骨折りがあったようです。

 さてこの地には、虚子三代の方々ばかりでなく正岡子規もかつて来ております。明治22年4月6日、大洗散策の模様を水戸紀行に録しています。子規はこの年に発病するのですがこの時はまだ大元気、若冠22歳、名文なので次に掲げます。


 舟は川口につきぬ。祝町の大門を出て松原を行くこと半里余(現大洗ゴルフ場内)、砂の中を歩むこと数町(現ハウスから入口付近)にして又一ツの林にいづ。樹々のあはい見ゆる甍これなん大洗神社なる。石階を下りて海浜に出れば料理屋4、5軒あり。今新築にかかれるたかどのは結構荘麗目を驚かすばかりなれば、これも料理屋にやと問えば然なり。鉄道の水戸へ通じて巳来紳士のきますことも多ければ此夏の備えに設くるものなりといえり。
 此うてなの下は即ち海にして直ちに太平洋に連なるものなれば、嶋もなく山もなく空は海に浸し海は空につづく、行きくる白帆なければ飛びかふ小鳥もなし。勢の余るものは岩の上を越えてつぎの岩にあたりくだけちる。くだくるものは空に白く躍り、こゆるものは岩の上眞白となる。このけしきの長くつゞきゐれば、ここにきえてかしこにおこり左に退きて右にすゝむ。一目に遠くより見渡せば白き岩と黒き岩とありてさながら碁石の如く変幻の妙筆に尽し難し。
  アメリカの波打ちよする霞かな


1992夏 地図②


著者情報もくじ


※ 原本における旧字体は、ウェブページで表示できる新字体に改変しています。


出典|大洗歴史漫歩、2002(平成14)年5月18日発行

著者・発行者|大久保 景明

印刷・製本|凸版印刷株式会社


登録者|田山 久子(ONCA)