植生の概要|自然環境|大洗町史(第1章第5節)

第1章 自然環境

第5節 植生の概要

1.恵まれた植生

 大洗町は日本列島における植生分布からは常緑広葉樹林帯に属する。常盤沖は暖流と寒流が交錯するため、両方の要素をもつ植物が混在し、植物地理学上興味ある地域である。

 茨城県における海浜植物のうち代表的な暖流系の種には、マルバグミ、イソギク、マルバシヤリンバイ・ハマナデシコ・ハマカキランなどがある。また寒流系の種には、ハマナス・スカシユリ・シロヨモギ・センダイハギ・マルバトウキ・ハマギク・コハマギク・オオウメガサソウなどがある。

 海浜植物の研究には、古くは斎藤卯内のがある。また和田幸の『大洗附近の海浜植物の生態』(昭和三十五年=1960)もある。和田の記録によれば、海浜植物の群落が広い地域に当時は見られたが、現在では点在してみられ、種類数のみでなく、量的にも激減していることが明らかである。

 大洗町の海浜植物として代表種をあげるとカケモノハシ・コウボウムギ・ハマエンドウ・ハマヒルガオなどがある。このうちカケモノハシ・コウボウムギ・ハマヒルガオはほぼ全域に分布する。なかでもカケモノハシとコウボウムギは大集落を形成している。ハマヒルガオも広く分布するが群落は小さい。ハマエンドウのみられる地点は少ない。最も大きな群落は旧水族館下にみられる。

 大洗町が北限地であったハマビシは絶滅し、現在はみられない。

コウボウムギ


ハマエンドウ


個体数が少ないハマゴウ



 砂浜にみられたおもな植物を挙げてみると次のようである。那珂川河口付近=チガヤ・カケモノハシ・オニシバ・コウボウムギ・カワラアカザ・オカヒジキ・オオマツヨイグサ・ハマヒルガオ・ブタクサ。大洗ゴルフ場付近の駐車場下=コウボウムギ・ツルナ・ハマヒルガオ。旧水族館下=クロマツ・チガヤ・カケモノハシ・コウボウムギ・ヒメスイバ・カワラケツメイ・ハマエンドウ・マルバグミ・ハマヒルガオ・ヘラオオバコ。茨交大洗ビーチパレス下=オニシバ・ツユクサ・ヒメスイバ・カワラアカザ・ハマエンドウ・ハマヒルガオ・ハマゴウ・セイヨウタンポポ。夏海=クロマツ・チガヤ・カケモノハシ・ハマニンニク・コウボウムギ・オカヒジキ・テリハノイバラ・マルバグミ・ハマヒルガオ・シロヨモギ。

暖帯林(車塚古墳)


 古来からの自然植生に近いものは、神社や寺などにみられることが多く、社寺林と呼ばれ、各地で貴重な文化財となっている。

 大洗町にも社寺林に自然植生に近いものがみられる。代表的な地点に大洗磯前神社・車塚古墳・稲荷神社・浅間神社などがある。また浅間神社から大貫町にかけての斜面一帯にかけても美しい常緑広葉樹の暖帯林が広がっている。大洗町に見られる暖帯林の極相を形成する樹種はスジダイである。

 代表的な地点にみられたおもな植物をあげてみると次のようである。

 大洗磯前神社=クロマツ・スギ・スジダイ・シロダモ・タブノキ・イヌツゲ・モチノキ・ヒサカキ・アオキ。車塚古墳=スギ・ヒノキ・モウソオウチク・スジダイ・シロダモ・ソメイヨシノ・ツタウルシ・モチノキ・ヤブツバキ・アオキ・ニワトコ。稲荷神社=スジダイ・ヤブニツケイ・シロダモ・タブノキ・マルバシヤリンバイ・モチノキ・ヤブツバキ。浅間神社=スジダイ・クスノキ・ツタウルシ・モチノキ・ヤブツバキ・ヤツデ・アオキ。

 また、海岸の景観になくてはならないものに、クロマツがある。海の子供の国付近より大洗ゴルフ場辺りには、よく管理されたクロマツがある。

義公御遺愛のクロマツ


 また、常陽明治記念館周辺には、今ではあまりみられなくなったクロマツの巨木が林立し、その景観は壮観である。昭和四十六年水戸市と那珂町から始まったいわゆるマツ枯れ現象により、茨城県の台地の林を代表していたマツ林が次々と姿を消していった。大洗町でも、代表的なクロマツであった、原前交差点わきにあった義公御遺愛のクロマツが昭和五十四年に枯れてしまい、雪風に耐えて風格のあった老樹を今は見ることができない。

 西光院にあるイチョウはオハツキイチョウで昭和三十七年二月二十六日茨城県指定の天然記念物に指定された。直径は一四五センチメートル、樹高は二十五メートルある。オハツキイチョウは葉の上に実がなるのでこの呼び名がある。

オハツキイチョウ(西光院)


本書について|もくじ


出典|大洗町史(通史編)、昭和61年3月31日発行

発行者|大洗町長 竹内 宏

編集者|大洗町史編さん委員会

発行所|大洗町

印刷|第一法規出版株式会社


登録者|金澤 真里(ONCA)