海産固着生物の分布と生態|海洋の生物|大洗町史(第2章第1節)
第2章 海洋の生物
第1節 海産固着生物の分布と生態
1. 水平分布
海藻の水平分布は海洋の諸要因の影響を受けるが、とくにそこを流れる海流の影響を受ける。大洗海岸を含む茨城県沿岸は太平洋沿岸の黒潮と親潮の二大海流が洗い、交錯するという特異な水域である。またこの二大海流は季節により強弱を生ずる。これらにより海藻をはじめとする生物の分布や、それら生物の季節的消長に大きな影響を与えている。
我が国の沿岸各地における、冬季ならびに夏季における水温は図のようになっている。また茨城県沿岸における水温については図のとおりである。
日本近海の海表面温度(℃)2月(1951~1980)
(『理科年表(昭和59年)』丸善より)
日本近海の海表面温度(℃)8月(1951~1980)
(『理科年表(昭和59年)』丸善より)
平磯海岸沿岸水月別平均水温(1979~1984)
(茨城県水産試験場)
陸上植物でも茨城県を分布の境とする種類は多く、分布上貴重な種類も多いが、海産植物でも多くの種を挙げることができる。茨城県沿岸以北に生育しない北限種は、褐藻ではムチモ・イシゲ・ハバノリ・カジメ・ヒエモク・ネジモク、紅藻ではフノリノウシゲ・オニアマノリ・ニセフサノリ・オニクサ・オオブサ・エツキイワノカワ・サクラノリ・トサカマツ・オオバキントキ・ナガオバネ・ヒメユカリ・タチイバラノリ・キジノオ・カバノリ・オオバツノマタ・サエダ・ヒメソゾ・ケハネグサ・ハネグザの25種が挙げられる。
潮間帯下部のオオバツノマタ
茨城県沿岸以南に生育しない南限種は、紅藻のウツプルイノリ・アカバの二種を挙げることができる。
大洗海岸を北限地とする海藻はハバノリ・カジメ・フノリノウシゲ・オニクサ・オオバキントキ・キジノオ・カバノリ・ケハネグサ・ハネグサの9種である。
茨城県沿岸に生育の知られた166種のうち岩手県(161種)産種と共通する種は82種で全種類数の50パーセントにあたる。福島県(160種)産種と共通する種は103種で全種類数の63パーセントにあたる。
また、利根川で境する銚子半島(144種)産種と共通する種は119種で全種類数の73パーセントにあたる。
銚子半島における海藻の分布は茨城県沿岸における分布と類似しており、亜寒帯性海藻のマツモ・イソムラサキが多数個体生育している。
以上の結果より、大洗海岸を含む茨城県沿岸の海藻相は、温帯性要素が強く、その中に亜寒帯性要素が混在しているといえる。
2. 垂直分布
旧水族館下の大洗海岸を代表すると思われる外洋性の地点について、その垂直分布を述べる。大きな岩礁の一部で岩礁面は平板状に広がり傾斜している。傾斜勾配は漸深帯より潮間帯上部まで約21度あった。走行は北18度西であった。岩礁面(調査地点一)の約25メートル東には大きな岩礁があるため、東からの強い直接の波浪は幾分弱くなる海況である。
岩礁の一部は満潮時でも露出しているが、調査地点一付近の岩礁は完全に水没するので飛沫帯はない。
調査地点二は調査地点一と同じ岩礁であり、平板状をした岩礁面で、傾斜勾配は約55度であった。走行は北38度西であった。付近に岩礁はなく、南西に面しているため、東からの波浪は直接打ちつけないが、かなり強い波浪が岩礁面にあたる海況にある。
調査法は帯状法を用い、帯状枠は幅50センチメートルとし、内部が10×10センチメートルの小区画に分けられた網状枠を用いた。調査対象の範囲は潮間帯上部より低潮線下30センチメートルまでとした。10×10センチメートル小区画内の生物はズリッヒ・モンテペラー学派の総合判定法による優占度(表)によった。
このようにして出された値を垂直に10×10センチメートルごとに各種それぞれを記録し、同じ高さで垂直に幅10センチメートルの五小区画内に出現する生物の値の平均を、その垂直幅の各種生物の優占度とした。この方法により各種生物の優占度を潮位10センチメートル間隔で調査を行なった後、岩礁面が傾斜しているので、水面に対して垂直な面からその岩礁面に投影して垂直幅を10センチメートルとした。
調査地点1
調査の対象とした漸深帯の一部より、潮間帯下部にかけてはネジモクが優占種であった。潮位30センチメートルまでの優占度は四〜五で顕著な帯状分布をしていた。また大洗海岸の潮間帯下部でよくみられるハリガネとスジウスバノリがみられた。石灰藻の一種サビ亜科の種が岩礁面に固着被覆し漸深帯より潮間帯中部まで広い範囲に分布していた。
潮間帯の帯状分布模式図(調査地点1)
潮間帯下部から中部にはヒジキが30センチメートル幅で帯状分布していたが、優占度は二〜四であった。波浪のいくらか弱まるこのような地点は、ヒジキの生育に最も適する地点と考えられている。この地点の優占度が低いのは、同層位にムラサキイガイが優占度二〜四でみられたため、生育空間をめぐる競争関係の結果と考えられる。ムラサキイガイや同じ仲間のムラサキインコガイの殻表に、ヒジキが生育している地点が大洗海岸の一部にあるが、実験結果によると、ヒジキの遊走子などの付着は困難であることが明らかにされている。
ムラサキインコガイに着生するヒジキ
動物ではムラサキイガイとクロフジツボが群体をつくり、代表的な種として挙げられる。潮位80〜120センチメートル間はネバリモ・カヤモノリが点在しているにすぎなかった。この層位にはムラサキイガイ・イワフジツボムラサキインコガイなどの動物が多くみられた。
潮間帯下部の海藻と海草群落
潮間帯上部にはアナアオサが優占度三〜四でみられ、イソダンツウはムラサキインコガイの殻表に付着して多くみられた。この帯での優占種はイワフジツボで、優占度四〜五でみられ、顕著な帯状分布をしていた。これらの分布下限は潮位80センチメートルであった。潮位60〜80センチメートル間ではイワフジツボの死殻が石灰藻の下にあった。これらの結果はイワフジツボの生育していた空間に石灰藻が下層位から上層位へ分布域を広げた結果で、このためイワフジツボの分布下限が上昇したことになる。この地点におけるイワフジツボの分布下限は石灰藻の分布により決定されるといえよう。ムラサキインコガイの優占度は十〜四であった。ムラサキインコガイとムラサキイガイの垂直分布についてみると、大洗海岸では、この地点と同様にムラサキインコガイがムラサキイガイの上層位にみられる。一部の地点では両種の混生しているのがみられる。
調査地点2
付近に岩礁はなく、南西に面しているため東からの波浪は直接打ちつけないが、かなり強い波浪が岩礁面にあたる地点である。このためみられる海藻の種類は限られ4種であった。漸深帯から潮位100センチメートルまではネジモクが優占種で、優占度五をしめし顕著な帯状分布がみられた。またネジモクの海中林内にはエゾシコロ・スジウスバノリがみられた。ネジモクの上層位潮位100〜170センチメートル間にはヒジキが優占度四〜五で顕著な帯状分布をしていた。ヒジキの分布上限が潮位170センチメートルと他の地点と比較して高いが、この地点が大洗海岸のなかでも波浪がかなり強いためと、傾斜勾配が急であるためと考えられる。ヒジキ帯にはヒジキに保護されるように固着性のヒメケハダヒラザガイ・クボガイ・ベツコウカサガイ・ヨメガカサガイがみられた。コカモガイ・アオガイは潮位100〜200センチメートルと幅広い帯位にみられたが、個体数は少ない。ヒジキ帯の上層位にはムラサキインコガイが優占度三〜四、イワフジツボが優占度三で顕著であった。この両種は潮間帯上部を代表する種である。
潮間帯の帯状分布模式図(調査地点2)
本書について|もくじ
出典|大洗町史(通史編)、昭和61年3月31日発行
発行者|大洗町長 竹内 宏
編集者|大洗町史編さん委員会
発行所|大洗町
印刷|第一法規出版株式会社
登録者|金澤 真里(ONCA)
0コメント