海産植物の記録と海藻相|海洋の生物|大洗町史(第2章第2節)

第2章 海洋の生物

第2節 海産植物の記録と海藻相

1.海藻の記録

 茨城県沿岸の最も古い海藻の記録は、『常陸国風土記』にみられ、海松(みる)、塩を焼く藻、海苔、が挙げられている。霞ヶ浦がまだ湾口を鹿島灘に開いていたころ、その周辺や日立市北部から多賀郡十王町付近の分布についての記録である。

 大洗海岸産の海藻の記録は、我が国の海藻研究の父といわれる岡村金太郎により記録されている。『植物学』という書のなかで「海の植物」を分担執筆し、海藻の付着する物体の解説のなかに、当時の大洗海岸の海藻の生態写真が一枚のっている。出版社および出版年が不明であるが、引用文献などからみて、大正十年(1922)以降の、この年に近いころのものと思われる。この岩礁は写真のとおり現在も当時の姿をとどめている。この岩礁は写真のとおり現在も当時の姿をとどめている。この岩礁は、馬洗どの一部にあたる。地元の人は「まわりど」と呼んでいる。

馬洗ど岩礁と海藻(古い写真)



 この写真は、茨城県沿岸の海藻の記録としては最も古いものと思われる。そして、この写真により、当時の海藻の植生を知ることができる。当時はホンダワラ科の一種で2メートルほどになる大型藻のオオバモクが繁茂していたことがわかる。

馬洗ど岩礁と海藻(1984)



 現在ではマツモ・カイノリ・スジウスバノリ・イソマツなどがみられ、オオバモクは全くみることができない。海藻の植生に大きな変化があったことがわかる。

 川端清策は、『動物及植物 七』、(昭和十四年=1939)で「茨城県(常陸国)沿岸の海産藻類に就いて」の報告をしているが、分布地域が記録されておらず、大洗産種も含まれていると思われるが、それがわからないのは残念である。

 宮崎方夫は川端清策を恩師とするが、『全国料理教育振興展覧会会記』(昭和十八年=1943)に「茨城県大洗磯浜沿岸海産藻類の水平並びに垂直分布について」の報告を行い、植物科で入選した記録がある。

 中庭正人は『茨城大学生物学会会報 一〇』(昭和三十八年=1963)で「茨城県産の海藻について」のなかで、大洗産海藻について記録している。

 宮崎方夫と田口常吉は『茨城県立理科教育センター二(二)』(昭和三十九年=1964)で「大洗海岸産そう類の目録」の報告をした。

 また宮崎方夫は『茨城県立教育研修センター理科研究集録 三』(昭和四十年=1965)で「茨城県大洗海岸海そう相の一端について」の報告をした。

 片田実は『バイオテク三(八)』(昭和四十七年=1972)の「日立海岸における海藻植生の異相と動物群集の崩壊」のなかで、大洗海岸の帯状分布について報告している。


潮間帯下部のアラメ



 中庭正人は多くの茨城県海岸の海藻の報告をしているが、大洗海岸産種の記録も多い。主な報告を順に挙げると、次の六編を挙げることができる。

① 『フロラ茨城三九―四二』(昭和四十三年=1968)の「茨城県沿岸産海藻ホンダワラ科について」のなかで大洗産種13種を報告している。

② フロラ茨城四八』(昭和四十五年=1970)の「茨城県沿岸産テングサ科海藻の分布」で大洗産種を5種報告している。

③ 『フロラ茨城五七』(昭和四十七年=1972)の「茨城県沿岸新産海藻」のなかで大洗産種12種を報告している。

④ 『フロラ茨城六〇』(昭和四十八年=1973)の「茨城県沿岸産ソゾ属海藻の分布」のなかで大洗産種5種を報告している。

⑤ 『藻類二三(三)』(昭和五〇年=1975)の「茨城県沿岸の海藻相」のなかで大洗産124種を報告している。

⑥ 茨城県高等学校教育研究会生物部で出版した『茨城の生物 第二集』(昭和五十六年=1981)の「茨城県沿岸の海産植物」のなかで大洗産種125種を報告している。



2.海藻相と海草相

 大洗海岸の地形は外洋に開け、単調であるが、固着性動植物の着生基物が豊富で地形に変化を与える岩礁地域が広く発達し、大小の岩礁は複雑に散在している。一部には転石地域や砂浜地域がある。

 着生基物の岩礁は中生代の白亜紀に属すといわれ、大洗層と呼ばれている礫岩の一種で砂岩・粘板岩・チャート・ホルンフェルスなどの大小さまざまな礫からなり、表面は凹凸がはげしい。

 海況は全般的に外洋性で強い波浪を直接受ける地点が多くみられるが、最近港湾の整備が進み、内湾性の地域ができた。

 海藻の種類数についてみると、茨城県沿岸に生育の知られた種類は、緑藻17種、褐藻36種、紅藻103種であり、合計166種である。これらのうち、大洗海岸で生育の知られた種は、緑藻12種、褐藻29種、紅藻84種あり、合計125種である。これは茨城県沿岸で生育の知られた種の75パーセントとなる。これらの数は、茨城県沿岸の他の海岸に比べて最も多い。次に多くの種が生育している海岸は五浦で117種、那珂川を堺とする北隣の那珂湊海岸は83種とかなり少ない。

 海草は茨城県沿岸にスガモとエビアマモの二種あり、大洗海岸には両種ともにみられる。このうちエビアマモは個体数が少ない。

花をつける種子植物スガモ



本書について|もくじ


出典|大洗町史(通史編)、昭和61年3月31日発行

発行者|大洗町長 竹内 宏

編集者|大洗町史編さん委員会

発行所|大洗町

印刷|第一法規出版株式会社


登録者|金澤 真里(ONCA)