名勝「大洗」について-神磯鳥居を含む岩礁の再評価-(蓼沼 香未由)
Ⅰ.岩礁の概要
大洗町の海岸線は,大貫・夏海沿岸の中南部に砂浜が広がり,北部の磯浜沿岸には,岩礁帯が発達している。岩礁は,大洗海岸の南北約1.8km,東西約0.9kmの範囲に見られ,断続的に幾つかの岩礁群を構成しながら,浜に並行して帯状に分布している。
昭和40年代以降の大洗港の建設までは,現在の大洗町役場付近に位置した久下磯が岩礁の南の限界であり,平太郎付近に発達した大洗岬を中心に左右両翼に岩礁が広がる姿が本来であった。
Ⅱ.岩礁の地質
大洗海岸に露出する岩礁は,大洗層という白亜紀(1億4,000年前~6,500万年前)または古第三紀(6,500万年~2,350万年前)という地質年代の地層の一部である。祝町から磯浜市街地にかけての台地の基底を成しており,涸沼川沿いや五反田,そして大洗海岸などの周縁部が好露頭となっている。大洗層は,礫岩(れきがん)から成っていて,含まれる礫は,頁岩(けつがん)・砂岩・花崗岩・チャートなどである。現在旅館街下を中心におびただしく海岸に堆積している岩石は,海底の大洗層が波の浸食により洗われ,打ち寄せられたものである。
Ⅲ.岩礁に生息する動物
大洗海岸の岩礁に生息する動物(貝類・魚類・海藻類など)は,潮の干満や飛沫(しぶき)のあたり方などにより,潮上帯・潮間帯(上・中・下部)・タイドプール・潮下帯などの垂直分布を示し,それぞれのエリアで生息種類が異なっている。大洗海岸には,アオノリ類(潮上帯),イワガニ・ヒジキ・ムラサキインコ・クロフジツボ・クボガイ・ムラサキイガイ(潮間帯),アオサ類・マクサ・イソギンチャク(タイドプール),アラメ・ウニ類(潮下帯)などの生息域の垂直分布が把握されている。詳細な調査を行った海藻類だけで,125種が把握されており,その他の貝類・魚類などの動物を含めると,正確な実数は不明であるが,この水域だけで数百種類を超える多種多様な動物種が生息しているものと考えられる。
Ⅳ.人間生活の場
以上のような岩礁地区における地質・動物・景観などの自然形成に対し,人間はその中から有用なものを取捨選択し,生活の糧を得るための場として歴史的舞台としてきた経緯がある。
・漁労採集(漁業・採藻業) ⇒縄文時代以来~現在
岩礁に生息する多様な種類の動物の中から,人間にとって有用な種類を採集・捕獲するために,効果的な漁具,及び漁法を発達させ,生活の基盤としてきた。
・原始古代の採集・捕獲
・江戸時代の海士
・ハンギリによる採藻漁 など
・信仰(神磯・大亀磯) ⇒平安時代以来~現在
・平安時代の大洗磯前神社祭神降臨の地
・戦後の神磯鳥居建設
・江戸時代から続く大甕磯に対する漁民の信仰
・景観・観光業 ⇒江戸時代以来~現在
・江戸時代以降の大洗磯前神社参詣と合わせた,海岸の散策
・明治20年代以降の海水浴場の開設・海水浴旅館の隆盛
・神磯鳥居の景観的価値
Ⅴ.その価値を評価し,未来へ。
以上のような,地質・動物・漁業・信仰・観光業など,多方面の価値を持つ,名勝「大洗」について,その状態を保護し,未来に残す文化財指定の策を講じてきた。
大洗町教育委員会・大洗町文化財保護審議会による,これまでの経過
平成10年11月20日
平成10年度第2回町文化財保護審議会において,委員より神磯鳥居を中心とする範囲の町指定名勝の提案が提出される。その後同提案は数度提出される。
平成17年5~6月頃
上の数度にわたる提案を受け,町教育委員会と海岸管理者である県土木部港湾課との間で指定に向けた折衝を開始
平成18年9月
町生涯学習課による名勝「大洗」の歴史的価値の調査。この調査成果を受け,ハコイソからサクヤまで岩礁全体を包括する広範囲の新しい指定範囲の設定。
平成20年11月26日
県港湾課・河川課による同意を受け,平成20年11月定例教育委員会に議案第52号「大洗町指定名勝の指定について」を提出。専門的意見を聞くため,町文化財保護審議会へ諮問。
平成20年12月12日
臨時の平成20年度第2回町文化財保護審議会を招集し,議案第1号「「大洗町指定名勝の指定について(諮問)」として調査審議。全会一致で,指定は妥当と判断される。
平成20年12月25日
町文化財保護審議会の答申を受け,平成20年12月定例教育委員会に議案第55号「大洗町指定名勝の指定について」にて,指定可決。指定が正式決定。
平成21年1月20日
大洗町告示第1号として,告示・本指定。
出典|2009年1月19日実施 大洗町宿泊施設青年会主催『第1回大洗地方史を学ぶ勉強会』(会場:大洗ホテル)
著者|大洗町教育委員会 蓼沼 香未由
登録者|蓼沼 香未由(ONCA)
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